感謝と追悼
清志郎が愛してくれたぞえじいのCD「Bitter with Sweet」


忌野清志郎氏のことを書きたいと思っていたが、きっかけがなかった。
ところが、09年5月31日の朝日新聞の「読書覧」に
清志郎氏の著書『瀕死の双六問屋』が文庫化され大きく紹介されていた。
で、ふつふつとあの頃のことがよみがえり、やっと
清志郎氏への感謝状を書く気になった次第です。


これは00年9月に発売された単行本の表紙です

 この本には彼のエッセイと、彼が愛聴しているCDが44枚紹介されています。じつは、その中の1枚が私のCDなんです。
本題に入る前に、その第二十四話の文章ををそのまま転載させていただきます。

 

第二十四話 俺を笑わせてくれないか

 また地下室からもどって来た。長い螺旋階段を登って、やっと自分の部屋にたどり着いた。途中でケータイが鳴った。女がなんで来てくれないの、いっぱつやって欲しいのよと言っていたがそれは間違い電話だった。ふざけんな、メスブタめ。
 長い階段を登ってきたから汗びっしょりだ。俺はビールに氷を入れていっきに飲みほした。うまい! ビールはきっちり苦い方がいい。遺伝子組みかえでも何でも、そりゃー苦い方がいい。「今や、会社のエライ人もサラリーマンなんだなー」と思った。ビールを飲むといつも何かを思う癖がついてる。「あの娘のほっぺは赤かったなー」とか「ワタナベの漫画はヘタッピーだけどおもしろいなー」とか、いろいろ断片的に思うのだ。ほっとしてビールを飲み終えると汗もひいていたのでCDを聴くことにした。最近手に入れた「ビター・ウィズ・スウィート」だ。49ERSがやってる最高のニセモノ・ソウル決定盤である。これは聴きごたえあるぞ。すんげえバカそうだぞ。俺の世代のソウル・ミュージックを日本語で演ってるんだ。名曲ばかり13曲も入ってる。かっこいいぜ。しかもインディーズのそのレーベルは、モモ・タウン・レーベルだ。モータウンじゃない、モモ・タウンだぜ。俺の好きな曲が全部入ってるんだ。何と言ってもドラムが素晴らしい。みんながんばってる。歌手はひどい。だが、流行の若者よりは百倍いい。世界に平和がやってくる感じだ。俺は本当にラッキーな男だ。こんなCDに出会えるなんてな。君たちも音楽を聴いて、そんな事を感じたことがあるだろ? 自分の気に入った音楽にめぐり会えるなんて、あまり日常ではあることじゃない。みんなが聴いてるからとか、これが流行ってるからとか、TVでよくやってるからとか、そんな理由でムダ金をはたいてレコード屋でCDを買うなんて、つまらないぜ。他人と趣味が同じなんてつまらないぜ。ひとと同じじゃ、どんなに大志を抱いていても一般人の中にうずもれちまうだけさ。誰もが大志を抱く必要もないけど、お金のムダ使いで流行を買うのはバカだよ。そーいえば、真心ブラザーズの曲で「聴いてる奴がバカだから」っていう名曲があったな。
 昔のことなら笑いながら話せる。だって本当に楽しいことばかりだったから。未来のことなら笑いながら話せる。だって夢のようなことを実現できると思うから。でも今の気持ちを聞かれたら、僕はつまらないことしか言えない。ずっとそうだった。現実に関してはつまらないことしか言えない。何も想い通りには行かない。何も変わりやしない。腰の引けたイクジ無しどもがこの世の中を動かしてるのさ。もう一度言おう! 腰の引けたイクジ無しどもがこの世の中を動かしてる。これじゃ、みんなカラに閉じこもって昔のことを想い出して笑うしかないのさ。あの娘に愛を告白したかったんだ。でも言えなかった。僕はずっとイクジ無しなんだ。それも今では苦くて甘い思い出さ。でも愛を告白したかったんだ。でも言えなかった。わかったよ。わかった、わかった。つまり、あんたはダメだってことさ。それでいいじゃん。だけど、それで迷惑かけた人がいるのならあやまった方がいいと思うよ。もう一度笑うためにはその前に迷惑をかけた人を笑わせてあげないとね。わかるかい、世の中はそういうもんだ。スジだけは通してくれよ。さあ、笑わせてくれよ、ベイビー。

 THE 49ERS/BITTER with SWEET/MOMOTOWN Momo-49
青山学院の向かいに、僕がよく行く「OA」っていうソウル・スナックがあるんですけど、そこで売ってたんですよ。リズム&ブルースの名曲ばかりを日本語で歌ってて。やってるのは僕と同年代の人たちだと思うんですけど。これがバカバカしくて、好きなんですよ。いや、本人たちはそれを狙ってるわけじゃないんだろうけど(笑)。ヴォーカルの人がデザイナーみたいですけど、ジャケットのセンスも、なかなかいいですね。


 歌手はひどい…と書かれた歌手は「私」のことです。「OA」はもうありません。絶賛してくださったドラマーは亡くなりました。そしてあなたも…
でも、私は(私の音楽に対する精神は)あなたに愛されていたと確信しています。
 あなたに会ったことが一回だけあります。04年、私が編集した宝島社の『ブラックミュージック“名盤”入門!』で、あなたがゴスペラーズの村上てつや氏と対談したときです。わずか5人ほどでブラックミュージックの話に花を咲かせましたね。でも私たちは「BITTER with SWEET」の話題をしませんでした。あなたがここまで書いてくれたにもかかわらず。後日、妻に「なんで、あのCDで歌ってるのはボクですよ」って言わなかったの? と聞かれました。でも、あの日の仕事に至る経過を考えれば、あなたは当然私の正体を知っていたはずです。私が自分から言い出さなかったのも、おそらくあなたと同じ気持ちだったからだと思います。わかってるヤツと話すのはすごく楽しい…それだけでいいのです。この気持ちばかりは他人にはわからないでしょう。
  本で紹介してくれたおかげで、わざわざ北海道や九州から「OA」を探し出してCDを買いに来る人もいました。OAのない今でもインターネットで私のアドレスを探してくれて、年に数枚売れてます。私のCDというより、皆あなたを愛し、あなたに近づきたいと思っているのでしょう。
 ひどい歌手ですが、まだ頑張っています。ありがとう!

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