『TAKAO(京王電鉄広報部発行の情報誌)』掲載小論集
第三話「高尾の変わり七福神


('07年8月発行「初秋号」) 

大黒天像。初甲子には茶飯をはじめ多くの供物が供えられる。

「高尾山にも七福神があるの?」とよく聞かれます。祀られていないわけではありません。6号路に入る手前には全員揃った七福神が洗心地蔵尊や不動明王などと共に祀られています。ここには昔、洗心禅院というお寺があったということです。一部の本などには「高尾七福神」と紹介されています。
 また、大本堂横の大師堂脇にもケースに収まったミニ七福神がおられます。

 しかし、山中で個別に祀られているメンバーは四天王門の「毘沙門天(多聞天)」、コースからちょっと外れた洞窟の「弁財天(穴弁天)」、飯縄権現堂横の「大黒天」と「恵比寿神」の四神だけです。薬王院は密教寺院ですので他の三神(布袋尊、寿老人、福禄寿)はあまり馴染まないのでしょうか。

 四天王門で北方の守りを担当する多聞天(たもんてん)は、単神として祀られる場合には毘沙門天(びしゃもんてん)とよばれる場合が多いようです。上杉謙信が篤く信奉していたことでも有名ですが、毘沙門天の妃は一説によると吉祥天だともいわれています。
  この美しい吉祥天も七福神のメンバーに入っている場合がありますが、弁財天にヤキモチを焼かれて宝船から降ろされているケースが多いようです。

 じつはその弁財天の美しさにぞっこんなのが高尾山でも八大龍王として祀られている龍一族です。日本人は龍=蛇と考えていましたから、よく弁財天と一緒に蛇が祀られています。頭の上に顔が老人で身体が蛇の「宇賀神」を載せている弁財天像(宇賀弁財天)もあるほどです。顔だけが載っている場合もあります。

 宇賀神は倉稲魂神(うかのみたまのかみ)ともよばれ、食物・稲の神様です。ちょっとややこしくなりますが、この神様は弁財天の夫とも、弁財天と同体の神ともいわれています。要するに「弁財天と同じ蛇の神様」ということなのです。
  高尾山のご本尊・飯縄大権現の手足に巻き付いている小蛇は、この弁財天や宇賀神の化身といわれています。

 じつは、その蛇を大敵としているのが大黒天のお使いである鼠です。大黒天と鼠の縁は、大国主命が野火に囲まれて困っているところを二十日鼠が助けたという神話が始まりです。大黒天はもともとインドの暗黒を司る夜叉でしたが、日本神話の大国主命(おおくにぬしのみこと)と文字の読み方(大国=だいこく)や、袋を背負っている姿などの共通点から、この二神は同じ神様とみなされるようになったというわけです。
  これまた、ちょっとややこしいようですが、日本の神様は、名前が似ていたり、ご利益が同じだったり、同じ動物を使いにしていたりと、何らかの共通点があれば「みな同じ神様」にしてしまう傾向があります。

 話を蛇と鼠に戻しましょう。まさか蛇を恐れてのこととは思えませんが、高尾山の大黒天脇に鼠の像はありません。代わりに左脇に小さな恵比須神がいます。線を彫っただけの像で判別しにくく、私もボランティア会の先輩に教えていただくまで気付きませんでしたが、ちゃんと釣り竿を持って鯛を抱えています。

 恵比須神(戎、蛭子とも)は純日本産の神様で、イザナギ、イザナミ尊が最初に産んだ水蛭子(ひるこ)のことともいわれています。この神はその名のとおり身体が柔らかく、いつまでも歩くことができなかったので葦舟(あしぶね)に乗せられて海に捨てられてしまいました。
  大黒様は好色で子沢山なところから豊穣の神様転じて商売繁盛の神様、恵比須さまは歩けないので「おアシが出ない」つまり出費がないから蓄財の神様、というシャレもあったのでしょう。商売の神様として、よく一緒に祀られています。
 もう一つこの二神の仲が良いワケは、大国主命が国を治めようと奮闘努力をしていた時に海の彼方からやってきて国土統一を手伝ったといわれる小さな神様、少名彦名命(すくなびこなのみこと)が、海に捨てられた恵比須神と同じ神様だと思われるようになったからです。つまり、海の彼方からやってきた、という共通点が少名彦名命と恵比須神を同神にしてしまったというわけですね。神田神社の大きな大黒神像の横にも、ちゃんと小さな少名彦名命が祀られていますが、ここでも少名彦名命は恵比須神とされています。

 ともかく、七福神とはめでたい神様を一艘の船に…いささか乱暴に…押し込んでしまった、いかにも日本人好みの信仰です。メンバーの入れ替わりはずいぶんあったようですが、茶目っ気たっぷりの江戸人が今のクルーにまとめたものです。

「高尾の変わり七福神巡り」の一神、琵琶滝不動尊。かなりのイケ面です。

 しかし高尾山の福神さまは他にもたくさんおられますよ…という意味を含め、私たち高尾パークボランティア会では「毘沙門天」「弁財天」「大黒天」の他に「飯縄大権現」「弘法大師(岩屋大師)」「不動明王」「神変大菩薩(役行者)」の四神を加えて「高尾の変わり七福神巡り」という歴史探訪の教室を企画しています(今年は10月10日開催)。
*08年は弘法大師に代わって「薬師如来(十二神将)」がメンバーに加わりました。

 今回は蛇と鼠のお話が出ましたので、次回は「高尾山の霊獣伝説」についてお話ししましょう。

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