『TAKAO(京王電鉄広報部発行の情報誌)』掲載小論集
第四話「高尾山の霊獣伝説


('07年10月発行「秋号」) 

文珠菩薩像。屋根の下とはいえ、風雨に曝されている。
狸神。誰が何を願って奉納されたのだろう。
由来を知っている人はいない。

 高尾山にはいろいろな動物が祀られています。その中には龍や鳳凰など、空想上の動物もいます。これらの動物は霊獣といわれ、神様のお使いまたは神様そのものです。
 まず6号路を登りますと程なく右手に琵琶滝不動堂がありますが、ここの羽目板には獅子(ライオン)に乗った文珠菩薩と、滝側でちょっと見にくいのですが象に乗った普賢菩薩の像があります。本来この二菩薩は釈迦如来をお助けする脇侍(きょうじ)なのですが、どういうわけかお堂のご本尊は(格下の)不動明王です。

 文珠菩薩の羽目板右後方にはなぜか狸がいます。気付く人は少ないようですが、ちゃんとコンクリート製の祠に祀られており、どうも洒落や冗談ではなさそうです。これは浅草寺伝法院裏の鎮護堂の祭神と同じ「火伏(ひぶせ)」の狸神なのでしょうか。

 私も高尾山で狸を見たことがあります。都内にも棲息しているほどですから、まだ高尾周辺には、かなりの数がいると思われますが住処を追われていることも確かでしょう。
  狸は人に憑くことがありますし、悪戯もすると信じられていましたから。どなたかが彼らの怒りを慰めるために奉納したのかも知れません。

 つぎは狸といえば狐です。じつは高尾山のご本尊と狐は切っても切れない仲で、飯縄大権現は必ず白狐に乗っている姿をしています。この神様のルーツは飯縄権現堂脇にある福徳稲荷社の祭神ダキニ天ともいわれています。ダキニ天という女神は豊川稲荷の祭神として有名で、やはり白狐に乗っているのです。
もとは人の心臓を喰らい、血をすする夜叉だったのですが、今ではすっかり美しい女神として人気を得ています。詳しくは拙書『スキャンダラスな神々』を参照してください。

この一対の白狐は飯縄大権現がダキニ天をルーツにした神であることと同時に、稲荷神であることを示している。
  飯縄権現堂正面、右手上には宝珠の玉を頭上に戴いた狐、左には倉の鍵をくわえた狐がいます。この玉と鍵は有名な両国の花火屋「鍵屋」「玉屋」の屋号になっているほどで、それぞれの主人がお稲荷様を篤(あつ)く信仰していた所以(ゆえん)です。
 この 権現堂を飾る極彩色の立派な彫刻には他にも龍、鳳凰、獅子、莫、馬、亀、鳥類など様々な動物が彫られていますのでぜひご覧になってください。

 また、境内のあちらこちらには神社でも見られる狛犬が奉納されています。これは高尾山が修験の山で、薬王院が神仏習合のお寺であるからです。日本の神社仏閣の中にこれほどいろいろな動物が見られるということは、昔の人が人知の及ばぬ自然の力や動物の超能力を畏(おそ)れ敬(うやま)っていたことの証(あかし)なのですね。

…次回は高尾山の滝伝説についてお話しいたします。

*高尾山で親しまれている動物には他に「ムササビ」がいますが、これについては別項に詳しく述べていますので、こちらをご覧ください。

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