『かえで(高尾パークボランティア会報)』掲載小論集
「善光寺の飯縄大権現」
No.167('05年6月号)

*この拙論は一部編集抜粋して拙書『スキャンダラスな神々』に発表しています。

風・雪害に耐えるよう、1961年コンクリで再造営された飯縄神社本宮

 6月7日、長野の善光寺に参拝。ただし本堂は修復工事中である。私事で大変恐縮だが、そもそも長野に出向いたわけは、約二年前から書き始め、ほぼ完成しつつある「飯縄神とクダ狐の妖術および高尾山の神々」についての研究文を本にしてくださるという長野市在の奇特な出版社から連絡をいただいたからだ。飯縄大権現は高尾山薬王院のご本尊であるが、この神の発祥の地は長野県戸隠山系の飯綱山なので、長野からお声をかけていただいたとしても決して突飛な話ではなく、むしろ東京都高尾発信のレポートに先方の方が驚かれたかも知れない。
(06年4月に龍鳳書房より『スキャンダラスな神々』として発刊)

 本題に入ろう。私は昨夏、飯縄大権現のルーツを探るため戸隠へ行ったのだが、飯綱山山頂近くにある飯縄神社本宮(こちらでは飯縄大明神)を参拝した折、そこで偶然にも麓の芋井地区の氏子さんと遭遇し、おふだ(下左写真)をいただいた。うかつにもその時点では気に留めなかったのだが、下山してからよくよく拝見すると「信州善光寺常圓坊鎮座」とある。
「なんで?」という疑問が湧いたのだが、それきりになっていた。そしてこの日ようやくその疑問を解くチャンスに恵まれたのだ。
 善光寺のお詣りもそこそこに私は境内の案内所で常圓坊の場所を訊ねたところ、山門を入ってすぐ右にあるという。なぜ気付かなかったのか腑に落ちないまま引き返すと表札は「常円坊」となっていたので見落としていたのだった。一般に寺社周辺でいう「○○坊」とは、講を組んでお詣りにきた方達のための、寺院や神社公認の宿のことで、いわゆる宿坊である。僧侶や神職が経営している場合が多く、本堂と関連のある神仏なども鎮座している。
 常圓坊の門をくぐってまず驚いたのは「八王子高尾講」が寄進した屋根つきの板碑が立っていたことだ。さすが高尾講! 私がここを探し当てるずっと前から、玄関先にしっかりと足跡を残していた。

 対応に出られた執事の男性は髪も普通に伸ばしており、お坊様には見えなかったが、なんとなく飯縄大権現を彷彿させる風体の方であった。高尾のボラ会で神仏・信仰の歴史を勉強している者だと挨拶すると、確かにこちらには飯縄大権現が鎮座されており、ご本尊は烏天狗の姿をした大聖不動明王ですとおっしゃる。
  なぜここに? との問いには、飯縄大権現は善光寺のご本尊「善光寺如来(阿弥陀如来)」を火災からお守りしているのだという。常圓坊は代々この神をお祀りする役を仰せつかってきた。で、飯縄大権現はいざという時のために、野山を素速く駆け回れる狐に乗っているのであると…。
「…う〜〜ん、なるほど」と納得いたしました。
 ちなみに善光寺の山門(内側より向かって左)に鎮座する巨大な荒神さまも火防の守り神ということである。

 古来、日本人は災難・災害をもたらす神を祀ることによって天候や身の安泰を祈ってきた。つまり、祟る神を畏怖し御機嫌を損なわぬようにしてきたのである。自然現象を司る神・病疫神・天神様(菅原道真)などがその代表格で、平たく申せば「触らぬ神に祟りなし」ということである(怒ると恐ろしい山の神は我が家にも…)。

 江戸時代、火災は天狗が例の羽団扇で火を弄ぶから起きると信じられていた。だから天狗である飯縄権現や秋葉権現を火伏せの神として祀ったのである。高尾の火渡祭で出されるお札のご利益も火伏せであった。
 長野では飯縄権現は天狗(飯縄三郎坊)とされている。

 話がそれたが善光寺には、新年に当役(世話役)が飯綱山山頂本宮の飯縄大権現(大明神)と戸隠神社を参拝する「堂童子」という正月行事があるという。善光寺の仏様と飯綱・戸隠の神々との関わりは深いのだ。

左:山頂でいただいたおふだ
右:常圓坊でいただいたおふだ

 ところで常圓坊の例祭日は5月8日と10月8日の年二回だが、その日でも飯縄大権現は開帳しないという。ひと通りのお話も伺い、拝観できず残念ですが…とお暇の挨拶をしたところ「よろしいですよ…」と、ご本尊を拝ませてくださった。しかもお札(嬉しいことに別バージョンだ)までいただいた。ご本尊は小像であったが、このお札とほぼ同じお姿である。そのお隣には八臂の弁才天が祀られていた。
 なんとラッキーな日であろう…せっかくだから一泊しようかな…と仕事の状況を電話で確認したところ、翌々日提出予定の原稿に修正が出ていた。で、好物の蕎麦を食べる暇もなく事務所へトンボ返り。
 そういえばお布施を置いてこなかった…。
  今日はもうこの辺にしておけとの飯縄大権現の思し召しか、それとも我が家に鎮座する山の神が手招きしたのか…。

 

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